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東京高等裁判所 昭和26年(ネ)2325号 判決

控訴人 株式会社静岡銀行

被控訴人 日本電信電話公社 外一名

主文

原判決をつぎのとおり変更する。

控訴人は被控訴人にたいし、金九百七十万円およびこれにたいする昭和二六年五月一二日から右金員支払ずみまで年六分の割合による金員を支払うべし。

訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、原判決を取消す、被控訴人の請求を棄却する、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする、との判決を求め、被控訴代理人は主文第一ないし第三項同旨の判決ならびに仮執行の宣言を求めた。

当事者双方の事実上の主張、証拠の提出援用認否はつぎに記載するところのほかは、原判決事実らん記載と同一であるからここにこれを引用する。

被控訴人の主張。

国は昭和二六年一〇月二六日脱退被控訴人水越政次から本件手形の裏書譲渡を受け、その所持人となつたところ、被控訴人は日本電信電話公社法施行法の規定により同年八月一日国から右手形を取得し、その所持人となつた。

後記控訴人の当審における新たな主張についてはその順序にしたがい、つぎのとおり主張する。

第一控訴代理人主張の手形関係における上流者、下流者の観念は一般的ではなく、手形法上否定されるべきものである。

水越は訴外中西興産株式会社にたいして贓物を分配したのではなく、同会社に金銭を貸与したのであり、その支払のために本件手形を受取り、その所持人となつたものである、手形債務者の保証人は主債務が消滅したときは保証債務の履行義務のないことは原則的にはもちろん否定しないが、本件における主債務は消滅していない、あえて上流者、下流者という理論を組立てる必要はない。

第二控訴人のいわゆる手形流通方法によらない取得者といえども善意取得者でないものとはかぎるまい、裏書または引渡のみが手形の流通であるということは控訴人の独断である、手形が振出交付されるとともに手形は流通におかれるのであつて、振出交付を受けることについて善意悪意があることは否定することができない、被控訴人の前者水越は適法に中西興産から手形を受領したのであつて、そのときすでに控訴人銀行二俟支店長宮崎忠輝の保証があつたのであるから、その支店長の保証が内部的には権限外であつても、このことを知らないで受取つた以上、保証について善意であることは言をまたないと信ずる、控訴人の主張は水越と中西興産代表者との関係をいわゆる流通でないとし、これを推して水越と控訴人銀行との関係に結びつけるのであるが、保証に関しては水越は保証ある手形を受取つたのであるから、それは流通であり、また手形受領について善意であつたことは間違いない。

第三控訴人銀行二俟支店長は商法第三八条第一項第四二条の規定により同銀行のため裁判外の一切の行為をなす権限を有する、したがつて同支店長が保証行為をする権限ありとなされるのは当然であつて、仮令内部関係において権限が制限されていても、その制限につき善意の第三者には対抗することができない。

被控訴人の前者水越は悪意ではなく、無権限の事実を知らなかつたのであり、善意なることにつき過失はない、また商法第四二条第二項は過失の有無を問わない、重大な過失は悪意を推定させるかも知れないが、同人に重過失はない、控訴人主張のような事実は悪意の推定を受けるものではない、悪意の有無は手形取得当時を標準とすべきで、その後に悪意となつても、これは無関係である、なお銀行保証手形を割引くのに銀行利率と同じでなくてはならないという主張は経済の実情にうといものというほかはない、また支店の取引に一々本店にうかがいをしなければならないのなら、支店とか支店長とかいわない方が一般民衆のためである。

第四水越および中西興産は贓物を分配したのではない、水越および中西興産代表者取締役中西貞司にたいする業務上横領等による公訴提起は、水越が中西興産に公金を貸付けたことを横領としているのであるが、中西貞司には共謀の事実はないのであるから、消費貸借が成立しないとすることはできない、水越は中西興産に手形金請求権を有することはもちろんである、またこの原因関係は本件手形行為と絶縁されているのであるから保証人の責任を生ずるのは当然である。

中西興産には瑕疵のない手形行為があり、これにたいし控訴人銀行の保証行為があるのであるから、控訴人の主張は失当である、受取人水越には手形を受取るについて瑕疵はない、本件貸付金が公金であることと手形行為、とくに控訴人の手形行為とは関係がない。

本件貸付金が公金であつても、またこれを貸付ける行為が横領であつても、消費貸借そのものは無効ではない、この貸付行為は不法原因給付ではなく、他人の金銭の貸付行為として有効である、中西は中西興産の代表者として利息および弁済期を定めて金銭を借受けたもので、贓物の分配を受けたのではない、さらにまた水越の行為が横領であるからというだけで直ちにそれを不法原因給付であるとはいえない。

第五白地補充前の手形を取得したるものは善意取得にならないという論は理解に苦しむ、控訴人銀行二俣支店長は昭和二六年一月中手形用紙二通の各補箋に振出人のため手形保証する旨の文言を記載し、かつ支店長として肩書記名および捺印した上、手形金額、振出年月日、支払期日、受取人氏名、振出人氏名等は中西貞司において補充すべきことを委託して交付したのである、中西はその一通に手形要件を記載し、振出人として中西興産の表示をし、その代表者として記名捺印したもので、これを水越に交付し、金九百七十万円を受領したのである。ところが支払期日に弁済ができなかつたので同年三月五日他の一通に支払期日を同月二八日その他の手形要件は前手形と同様として振出交付したもので、白地部分についてはこの補充権を与えたのであるから、その後は手形の白地部分が補充されても別に善意取得の関係において問題はない、金銭の貸主がそのために受取つた手形に自己を受取人として補充しても当然のことで、補充権の濫用はない、さらにまた白地の補充は補充権の存続している限り、訴訟中といえどもこれを行うことができることはもちろんである。

第六本件手形は偽造ではなく補充権の濫用でもない、中西がかりに宮崎から受取つた白地手形の一通を返還すべきものだつたとしても、それは同人と二俣支店長との内部関係に過ぎず、水越の関知しないところである、また中西が補充権を濫用したとしても、補充権の濫用については水越に悪意も重大な過失もないから、手形法第一〇条第七七条の規定によつて保証人は責任を負うこともちろんである。

第七白地手形を補充した後適法にこれを訂正、変更したとしても手形の同一性を害するものではない。仮りに支払期日を変更したとしても振出人の保証人たるものの責任に消長をおよぼすわけがない。変造前の署名者は原文言によつて、責を負うべきものであることは、手形法第六九条第七七条の規定するところである。

第八白地手形も手形である以上、手形取得者の善意悪意はこの取得のときに決せられる。けだし、手形取得の時に善意であつて、したがつて手形上の権利を取得したものがその後に悪意になると権利を失うものとすれば、善意取得者が訴訟中に悪意になると全部敗訴となる理屈となる、また白地手形の善意取得者が補充しないで手形金の請求に行つたとすれば、被請求者から事情を告げられて悪意となると権利は何もなくなるわけになるが、請求前に補充すれば権利があるという理論はとうてい法律家として理解することができない。

控訴人の主張。

国が昭和二六年一〇月二六日脱退被控訴人水越から本件手形の裏書譲渡を受け、その所持人となつたこと、被控訴人が日本電信電話公社法施行法により本件訴訟関係を承継したことは認める。本件請求の排斥されるべき理由はつぎのとおりである。

第一一般に手形権利者は数名ある前者のうち、何人に請求するかは自由に選択しうるも、前者(上流者)に請求せざることを確定して、例えば免責の意思表示をしつゝ、しかも後者に請求することはできない、同様に前者に請求しえない関係にある者は後者にも請求しえない、さらに推及しうることは、前者が所持人に対して有する抗弁は、それが所持人の側に存する抗弁事由であるときはこれを後者が援用しうるということでなければならない。

本件手形関係において、水越と手形所持人訴外中西興産株式会社代表者代表取締役中西貞司(以下、中西という)との間は贓物を分け合つた関係であり、水越は中西にたいし、手形金の請求をなしえない、被控訴人が本件手形の保証人なりと主張する控訴人株式会社静岡銀行は中西の後者(下流者)たる関係にあること明であつて、水越が前者たる中西にたいし、本件手形金を請求しえない以上、水越が後者たる控訴人銀行にも請求しえない、手形保証人と手形被保証人とは前者、後者の関係にあることは、保証人が被保証人に手形上求償しうることから明かである(手形法第三二条第三項)

第二手形的流通方法によつて取得したるにあらざる者は善意取得者たりえない。水越は本件手形の振出人中西からその振出を受けて第一回所持人となつた者であつて、手形的流通の方法(裏書または引渡の方法)によつて右手形を取得したものではないから彼は善意の取得者たることはない、水越に関する限り、真の手形関係は確立されておらず、一切が民法的関係においてのみ判断されるべきものである、したがつて控訴人銀行の保証債務の内容は民法の保証と同じに帰するところ、中西は水越にたいし、民法上いかなる債務をも負担しないのであるから、控訴人銀行においてもまた水越にたいしなんらの債務を負わない。

第三無権限の代理人の為したる行為については本人は責を負はない、代理人が権限ありとみなされる場合においても悪意または重大な過失ある者には対抗できない。

本件において、宮崎が控訴人銀行を代理して手形保証をするにつき無権限なことについて水越は十分悪意であり、または悪意の推定を受けるに足る重大な過失があることをつぎのとおり補足する。

一  まず手形金が一千万円という巨額なることである。一般に一支店長では決済しえない巨額であることは常識上明らかである、ことに二俣町というごとき静岡県の山間の一地方の支店長が引受ける債務としてはあまりに巨額である、手形の所持人たらんとする者はまず支店長の権限の有無を調査すべきである。はたして本件手形受取人水越はみずから現地に出張して支店の、規模の小なることを目のあたりにみて来たのであるから、水越は当然支店長の無権限を知るべきであり、悪意の推定を受けるのは免れがたい。

二  銀行支店長が手形保証をなしえざることについては昭和二四年以来地方銀行間の申合せにより各地支店に通知し、周知方徹底を期している、本件手形受取人水越のごとく銀行取引に明るい者にとつては右事情は悪意であると推定される。

三  控訴人銀行支店長宮崎が保証行為をする権限のないことは受取人水越には十分知らされている、もつとも振出当時にはしからずとするも、白地補充までには十分に知らしてある、しかして、白地補充後にのみ「手形」の取得ありとすれば、受取人水越は保証につき権限なき者のした手形保証なることを知つて本件手形を取得した者であるといわねばならない。

四  水越は平穏公然とは称しえない方法で手形取引をしている。彼は宮崎が代理権ありやいなやを調査するために二俣町へ行つたといつているが、その途中に控訴銀行本店所在地静岡市があるのに、静岡市にも下車せず、静岡を素通りしてコソコソと取引している。本店に知られては都合が悪い何ものかを彼は脳中にえがいていたのである、平穏公然に本店に問合せて然るべきで穏密に田舎町まで行く心理は何ものか後暗いものがあつたのである。

五  つぎに水越は本件手形割引に際し、一ケ月金七十万円の利息をとつているからである、宮崎の権限に全幅の信頼をおいたのであれば、銀行に預金していると同じの利率でよいはずである、およそ銀行保証を得た手形が、高利貸の要求する程の金利を払わねば割引かれないというのでは、銀行保証の意味がないのである、銀行保証があれば銀行預金なみでよいはず、それが本件のごとく一千万円にたいし一ケ月金七十万円という金利は年利八割以上であつて、かくのごとくんば到底銀行保証に信頼したとはいえない、すなわち宮崎の代理権限に信頼したとはいえないのである、水越は支店長の保証があれば現金同様だと信じたといつているのが、それが右のごとき高利をとらねばならないとはどういうわけか、一ケ月金七十万円の高利の中には支店長の権限にたいする不信のなにものかがあり、これに対する危険料が加味されているのである。

六  水越は宮崎の無権限を知らざるにつき重大な過失がある。したがつて悪意の取得と同様に判断される、すなわち、宮崎が支店長であるかどうか、巨額の手形に保証しうるかどうかは本店に照会すればわかるし、また本店に照会すべきである。しかるに前記のとおり水越は控訴銀行本店所在地静岡市を素通りして静岡より山奥へ三時間の行程の二俣町へわざわざ行つている、水越には何か本店で問合せることをためらう後暗いものがつきまとつていたのである、これは前述の悪意といいえざる場合にも重過失はまぬかれない。

また宮崎が保証したか否かにつき水越は手形を示して確かめていない、ただぼんやりと雑談のうちに保証したかどうかを聞いているという程度のことであつて、これでは十分の注意を払つたとはいいえない。

第四手形振出人と手形受取人との間に贓物を分配したる関係あるときは受取人は振出人にたいし、手形金の支払を請求しえず、したがつて振出人の保証人にたいしてはその保証行為が完全なるときといえども受取人は請求しえない。

本件手形振出人水越とその振出人中西との間には公金横領の共謀がある、仮に共謀がないとしても少くとも中西は公金なることを知つて水越から金九百七十万円の貸付を受けたものであるから、水越および中西は公金所有者たる国にたいし共同して不法行為をしているものであり、かつ水越は公金の貸付により利息その他礼金を利得し、中西は公金の流用を受けてこれを返還していないのであるから、いずれも国にたいし法律上の原因なくして不当に利得しているものである、かように贓物を分配した水越と中西との間には正当の手形原因関係、ことに消費貸借が成立しないことは自明であり、水越は中西にたいし、不法な原因によつて公金を給付したものである、よつて水越は中西にたいし本件手形金を請求しえず、したがつてその手形保証人である控訴人銀行にたいしてもこれを請求しえないことは当然である。

なお、手形受取人が手形振出人にたいし、手形金を請求しえざる場合にも手形行為独立の原則により保証人は責任を負うべきであり、保証人には請求しうるのではないかとの反論があるのであらうが、それは前者後者の理論と手形行為の独立原則とを混同するものである、前者に請求しえない受取人が後者に請求しえないことはさきに論じたとおりである。

第五白地補充前に手形を取得した者は手形を善意取得しえず、少くとも悪意の推定をうける。

本件手形において白地補充のなされたのは水越またはその代理人江川、小池両弁護士が控訴人銀行に来訪した昭和二六年三月三一日または同年四月一二日以後、本件訴提起の日たる同年五月四日までの間であるところ、控訴人銀行はこの補充までに水越およびその代理人らにたいし、控訴人銀行二俣支店長宮崎忠輝には本件手形保証の権限のないことを知らしてある、しかして白地手形は白地補充をしたときから完成手形となるのであつて、白地手形振出の時にさかのぼつて完成手形となるものではないところ、水越は宮崎の無権限を知つて白地補充をしたものであるから悪意の取得者である。したがつて控訴人は水越およびその権利承継人にたいし、手形法第一七条を類進適用して悪意の抗弁を提出する。

第六手形署名者に返還すべき手形を返還せずして、白地を補充し完成せしめたる場合には手形の偽造がある、署名を偽造されたる署名者は手形上の責任はない。

本件手形保証の署名をした宮崎は当初二通の白地手形を振出人中西に与え、一通をもつて金融の目的を達したときは他の一通を返還すべきことを約した、しかるに一通をもつて間に合つたことは当事者間に争がなく、他の一通はこれを宮崎に返還すべきものであつた、しかるに当初の一通を延期するために他の一通に白地補充をしたことはたんなる不当補充ではなくして手形の偽造であり、被偽造者たる控訴人銀行には責任はない。

第七白地補充を一たんなしたる後さらにこれを訂正することは手形の同一性を害する、同一性を害される以前の署名者は同一性を害された後の取得者にたいし責任を負はない。

中西は本件白地手形につきその支払期日を一たん昭和二六年三月一八日と補充しながら右期日が来ても支払ができなかつたので宮崎に無断で同年三月二八日と書き直した、しかも二八日を一度消して又二度目に同じく二八日と書き入れている、この場合は手形債務は不成立と見られ、この見地においては控訴人は何人にも責を負わないのであるが、少くとも同一性を害する程の大きな変造があること疑がない、このごとき変造がある場合には所持人となる者は十分に注意すべく、変造前の署名者の意思を確めなければならない、かかる手形を水越が漫然取得したことは悪意または少くとも重大な過失があるものである。

第八白地手形になされた手形保証が代理人によつてなされた場合に、白地補充をした者が、その補充当時、代理人にその権限のないことを知つていたときは本人は責を負はない。

本件において白地補充のなされたのは水越または水越代理人江川、小池両弁護士が控訴人銀行に来訪したる昭和二六年三月三一日または同年四月一二日以後のことであつて、その時に控訴人から宮崎に控訴人銀行を代理して手形保証をなしうる権限なきことを水越に知らしめてあること前記のとおりである、しかして白地補充によつて手形保証が完成するならば水越は宮崎に手形保証の権限なきことを知りて保証をうけたと同様であつて、保証によつて何ら責任を生ぜざるは明らかである。

第九本件手形は貸付手形である、すなわち消費貸借証書である、

本件は公金流用によつて正当な契約関係は成立する理由のないこと、前述のごとくであり、手形関係にまで発展しない、およそ手形には貸付手形と割引手形とがあるが、本件手形は貸付手形であつて、この貸付手形は当初から流通を目的とすることなく、たんに消費貸借契約の証書の代りとして手形を用うるに止まる、ことに本件におけるように期日後における裏書は手形上の融通ではなく、民法上の債権譲渡に過ぎない、水越と中西とは公金を流用したものであつて、両者間の消費貸借契約は無効にして水越が中西にたいし何らの権利を主張しえない以上、中西の保証人であると主張される控訴人銀行にたいしても何ら権利を主張しえないことはいうをまたない。

〈立証省略〉

理由

訴外(原審共同被告)中西興産株式会社取締役社長中西貞司(以下単に中西ということもあるが)昭和二六年三月五日金額九百七十万円、満期同年三月二八日、振出地および支払地静岡県磐田郡二俣町、支払場所株式会社静岡銀行二俣支店とし、受取人は白地の、くわしくいえば、受取人らんに株式会社静岡銀行二俣支店と記載してあるのを抹消して証印した約束手形すなわち甲第一号証を振出し控訴人の前々主でもと本件訴の原告であつた水越政次(脱退被控訴人)に交付したこと、右手形には右振出当時すでに控訴人株式会社静岡銀行二俣支店長宮崎忠輝が手形振出人のために保証をする旨の記載およびその記名押印ある補箋がつけてあつたこと、この補箋は右宮崎が右肩書の資格において作成してつけたものであることは、原審および当審証人宮崎忠輝の証言、原審における原告水越政次(脱退被控訴人)被告中西興産株式会社代表者中西貞司の各本人の供述および甲第一号証の一、二の存在並にその記載をあわせ考えてこれを認めることができる。

被控訴人の本件請求は、控訴人が前記手形における振出人のためにする手形保証人として責任あることを主張して手形金の支払を求めるものであり、控訴人は手形保証人としての責任のない旨あまたの抗弁を提出するので、便宜上、つぎに第一において心要と認められる事実関係を説示し、第二において各抗弁にたいする判断を説示する。

第一本件手形が振出されるにいたつた事実について。

控訴人銀行二俣支店長宮崎忠輝の印章の成立につき争がなく、その余の部分については原審共同被告中西興産株式会社代表者中西貞司の供述(第一回)により成立を認める甲第一号証の一、二、原本の存在並にその成立に争ない甲第二号証、成立に争のない第四号証の一、二、乙第五、六号証、第七号証の一、二、第九号証の一、二、乙第八号証および第一〇号証の一、二、三の各一部、当審証人水越政次の証言、原審(第一、二回)および当審証人宮崎忠輝、当審証人中西貞司、石原繁の各証言の一部、原審における脱退被控訴人水越政次本人の供述(第一、二回)原審共同被告中西興産株式会社代表中西貞司本人の供述(第一、二回)の一部をあわせるとつぎの事実を認めることができる。

訴外中西貞司はかねて訴外中西興産株式会社(原審共同被告)代表者としてガラ紡の織布や綿糸の売買などに従事していたものであるが、その資金とするために昭和二五年一一月中訴外石原繁を仲介として、当時電気通信省東京丸の内電気通信管理所会計課長の地位にあつた脱退被控訴人水越政次に金融を申込んだところ、水越から銀行の保証する手形があれば貸そうといわれたこと。

中西は以前から控訴人銀行二俣支店長宮崎忠輝と親しい間柄であつたので、(宮崎が当時右支店長であつたことは当事者間に争がない)同年一一月中、宮崎にいたし、他から金一千万円くらいを借受けるから中西興産株式会社代表者として中西が振出す手形に保証をされたいと依頼してその承諾を受け、そのころ宮崎から振出地、支払地静岡県二俣町、支払場所控訴人銀行二俣支店金額一千万円、振出日、満期、振出人、受取人はいずれも白地の手形一通の補箋に、宮崎が控訴人銀行二俣支店長として手形保証する旨の記載をしたものの交付を受け、中西において金融を受けるためにこれを用いるに際して中西が右白地部分を適宜に補充することの承諾を得たこと。

中西はこの白地保証手形を水越に示したところ、水越は宮崎が控訴人銀行二俣支店長であるかどうか、また、宮崎がこのような白地手形保証をしたものであるかどうかを確めるため、そのころ中西、石原の両名とともに静岡県二俣町にある控訴人銀行二俣支店におもむき、そのときすでに水越の職業を知り、かつ同人が貸主であることを知つている宮崎に面会し宮崎から直接に前記のように宮崎が中西のために手形保証するものであることの事実をたしかめ、また宮崎から二俣支店は同地方における木材その他物資の集散地で、右支店における取引高は一ケ月金二、三億円にも上ること、中西は確実な実業家であり、問違のない人物であると告げられたこと。

そこで水越はかように控訴人銀行の手形保証のある上は、中西に融資しても確実に回収しうるものと信じ、同年一二月二三日ごろ会計課長として職務上保管にかかる国所有の現金一千万円を、利息一ケ月一割、期間一ケ月の約で貸し渡し、中西はこれと引かえに前記白地保証のある手形の白地を補充して手形を完成し、これを担保として水越に交付したが、中西は右金円を事業資金に投ずる時期を失い、昭和二六年一月二三日ごろこれを水越に返還し、同時に水越から右手形の返還を受けたこと。

中西はついで同月中再び水越にたいし、前同様金額約一千万円、期間一ケ月の融資を申込むとともに、宮崎にたいし、前同様右借受金を担保するため中西興産が水越にたいし差入れる約束手形につき手形保証をすることを依頼してその承諾をえ、そのころ宮崎から「約束手形」「右金額貴殿又は貴殿の指図人へ此約束手形引換に支払可申候也」「支払地静岡県磐田郡二俣町」「支払場所株式会社静岡銀行二俣支店」「振出地静岡県磐田郡二俣町」「株式会社静岡銀行二俣支店御中」の記載のある同支店備付手形用紙二通の各補箋、にそれぞれ振出人のため手形保証をする文言を記載し、控訴人銀行二俣支店長として記名捺印し、手形用紙表面の前記受取人らんの記載を抹消し、かつその証印を押し、なお手形の記載事項の加除訂正に利用するため、いわゆる捨印数個を上欄に押したものを受取り、手形金額、振出年月日、満期、受取人、振出人の各記載らんは白地部分を補充して手形を完成することの承諾を得たこと。

中西は右のように宮崎から白地保証手形二通を受取るとき、宮崎にたいし一度には金一千万円を借受けることができないから手形を二通要するかも知れないと告げたが、中西は昭和二六年一月末ごろ、それまでの金円貸借における貸主水越および仲介人石原の言動から推し、水越が貸す金円は同人の職務上保管する国の所有する公金であることをさとりながら金一千万円を利息一ケ月一割期間一ケ月の約で借受けることとし、そのころ右白地保証手形一通に金額一千万円、振出人中西興産株式会社取締役社長中西貞司、振出日昭和二六年二月五日、満期昭和二六年二月五日(ただし、この満期は中西において昭和二六年三月五日と記すべきところを右のように誤記したものである)と補充してこれを水越に交付し、その引かえに水越から右一千万円のうち金五百万円、同年二月二日ごろ残金四百万円をそれぞれ現金をもつて交付を受けたこと。(残金百万円は一ケ月分の利息として差引く趣旨で現実には授受しなかつた。)

しかるに中西は右期限に弁済ができなかつたので、同年三月五日ごろ、前記白地保証手形二通のうちの他の一通(本件手形)に金額を九百七十万円、振出日「昭和廿六年参月五日」支払日「昭和廿六年参月弐拾八日」と補充し、振出人として中西興産株式会社代表者社長中西貞司の記名押印をし、受取人らんをば記入せず(さきの手形の金額を一千万円とし、この手形の金額を九百七十万円とした理由は、中西がさきに昭和二五年一二月中水越から借受金として受領した金一千万円のうち、水越に金三十万円を貸与してあつたので、この金額を差引いたものである。またこの手形は満期を昭和二十六年参月拾八日と記載し、これを抹消して弐拾八日と訂正し、さらにこれを抹消して弐拾八日と書いてあるが、これは中西が満期を記入する際に書き損じたものであつて、右訂正の箇所には中西名下の印章と同一の印が押されてあり、その上欄には宮崎名下の印章と同一の印章が押されてあるからこの訂正は中西についても、宮崎についても適法に訂正されたものと解すべきものである。)これを水越に交付し、同時にさきの金額一千万円の約束手形は水越から返還を受け、そのころこれを宮崎に返還したこと、そしてその際中西は宮崎にたいし、他の一通(本件手形)の白地保証手形は満期を一ケ月延期した書換手形として白地を補充し水越に交付した旨を告げたが宮崎はべつだん異議もいわなかつたこと。

しかるに振出人中西興産株式会社は三月二八日の満期に手形金の支払をしなかつたので、水越は同月三〇日控訴人銀行二俣支店において同支店長宮崎にたいし、手形を呈示し、手形保証人としての支払を求めたが、(ただし受取人らん白地のまま)同人はこれに応じないので、翌日三一日頃ごろ、静岡市にある控訴人銀行本店において支払を求めたところ、控訴人銀行においては支店長には控訴人銀行の代理人として手形保証をする権限がなく、右保証は無効であるとしてこれに応じなかつたこと、受取人らんの補充はその後白地を補充されたものであること。以上それぞれ認めることができる。

甲第二号証、第四号証の一、二、乙第八号証、第一〇号証の一、二、三の各記載ならびに原審(第一、二回)および当審証人宮崎忠輝の証言、当審証人中西貞司、石原繁の各証言、原審共同被告中西興産株式会社代表者中西貞司の供述(第一、二回)中、以上の各認定に反する部分は前記各証拠と対照し、信用ができず、本件にはその他に右認定を左右する証拠はない。

第二控訴人の抗弁にたいする判断。

一  本件手形について宮崎のした保証は、手形金も、満期の記載もなく、振出人の署名もしくは記名押印のない手形用紙の補箋になされたもので、未完成手形についてなされたものでさえないから、手形保証として無効であるとの抗弁(原判決原本四枚目裏六行目以下(イ))について。

宮崎が補箋をつけて手形保証をした手形用紙には、約束手形ナルコトヲ示スベキ文字、金銭ヲ支払フベキ旨ノ単純ナル約束および「支払期日」「支払地」「支払場所」「振出地」という約束手形用紙である以上通例存する印刷文字の記載あるものであつたこと前段(第一)認定のとおりであり、かような手形用紙によつて手形が振出される場合にこれについて振出人のために保証をする意思をもつて、手形用紙に補箋をして手形保証の趣旨を記載し署名もしくは記名押印をするならば、かかる行為は後日この用紙を用いて手形が振出されたあかつきにおいて効力を生ずべき手形保証、一種の白地手形行為として有効であると解すべきであるから、控訴人の抗弁の理由のないこと明かである。

二  宮崎は、控訴人を代理して手形保証をする権限がなく、水越は本件手形取得当時右無権限を知つていた、かりに知らなかつたとしても、それは水越の重大な過失によつて知らなかつたのだ、との抗弁(原判決原本第五枚目表一行目以下(ロ)およびこの判決の事実らん控訴人の主張第三、第五、第八)について。

宮崎が控訴人を代理して手形保証をする代理権限を有しなかつたことは控訴人提出援用の証拠によつてこれを認めることができる。しかし宮崎忠輝は本件手形保証の当時控訴人の二俣支店長であつたことは前段説示のとおりであり、商法第四二条第一項によつて裁判外の行為について支配人と同一の代理権を有するものとみなされるのであるから、本件手形保証のついている手形を中西から受取つた水越がその手形取得当時宮崎の無権限を知つていたのでなければ、控訴人は宮崎の無権限を主張し得ないこと商法第四二条に明かである。

ところが、水越の悪意を推認すべき資料として控訴人の主張する事情のうち、水越が銀行取引の実情に明るいことはこれを認めがたく(水越は本手形授受当時電気通信省東京丸の内電気通信管理所の会計事務にたずさわる公務員にすぎなかつたことは前に第一に説示したとおりであつて、銀行取引の実情に明るいと推測すべき地位にあつたことは認められず、その他同人が銀行取引の実情に通じていたことを認めるにたりる資料はでていない)、その他控訴人主張の事情は、必ずしもこれらによつて水越の悪意を推認せしめるものでない。しかのみならず、前段認定のとおり、水越は、昭和二五年一二月中、中西にたいし、貸金として金一千万円を交付するについて宮崎が真実控訴人銀行二俣支店長であるかどうか、また同人が真実手形保証をするものかどうかをあらかじめ調査をするため、中西および訴外石原繁とともに二俣支店まで出向いて宮崎に面会し、右の事実をたしかめ、かつ宮崎から、二俣町は同地方における木材その他物産の集散地であり、同支店における取引高は月額金二、三億円にも上ること、中西は有能な事業家であるから間違いはないなどと告げられたことがあるものであり、かような事実から考えれば、水越は、本件手形交付を受ける当時宮崎の無権限を知らなかつたと推認するのが相当である。なお、商法第四二条第二項にいう「悪意」には過失による善意の場合をふくむものではないと解するのが相当である。水越が善意であつたことがその過失によるかどうかは判断を要しない。

また手形金額が一千万円であること、(ただし本件手形に書替えられて金九百七十万円となる)水越が二俣町に調査に行つた際控訴人銀行本店に立寄らず、かつ本店にたいし、宮崎の手形保証の権限の有無を照会しなかつたとのこと、水越が金一千万円の貸金にたいし、一ケ月金七十万円の利息をとつたとのこと、水越が宮崎に手形を示して同人が手形保証をしたかどうかをたしかめなかつたことはこれによつて水越の悪意を認めるに足りない。

また水越は、本件手形受取人らんに水越の氏名が書き入れられ、受取人の記載を補充される前にすでに宮崎の無権限と知るにいたつたこと、さきに第一に説示したとおりである。しかし、商法第四二条は、「本店又ハ支店、営業ノ主任者タル」外形を信頼して取引関係にはいつた者を保護する趣旨の制度であるから、手形保証をした支店長などの代理権の有無について同条第二項を適用するにあたつては、手形保証ある手形を取得する時における善意悪意を標準とすべく、白地部分を存して振出された手形についてもかかる未完成手形を白地補充権とともに譲受け交付をうける時における善意悪意を標準とすべきである。この点に関する控訴人主張の見解は、商法第四二条の趣旨にそわないものである。

三  本件手形は中西が補充権を濫用した手形で水越がこれを知りながら取得したものであるとの抗弁および本件手形は中西が宮崎の署名をほしいままに利用して作成した偽造手形であるとの抗弁(原判決原本第五枚目裏五行目以下(ハ)およびこの判決事実らん控訴人主張第六)について。

この点に関する事実関係は前記第一に説示するとおり認められるから、これとちがう事実を前提とする右主張は理由がないこと明白である。

四  水越は前者(中西興産株式会社)にたいし、手形金請求をしえない関係にあるから後者(控訴人銀行)にも請求しえないとの抗弁(原判決事実らん(二)この判決控訴人主張第一、第四)について。

手形保証による債務も保証債務として附従性を有し、手形保証人は保証せられた者と同一の責任を負うのであり、保証債務は担保された債務が支払、時効又は手続の欠缺によつて消滅するときは消滅するものであるが、担保された債務が方式の瑕疵によつて無効な場合を除き、その如何なる事由によつて無効な場合でも手形保証は有効であること、手形法第三二条において明かに定められるところである。

ところが控訴人がここに主張するところは要するに、中西興産株式会社代表者中西貞司は東京丸の内電気通信管理所会計課長水越政次と共謀して横領した公金の分配をえたものであり、かりにそうでないとしても中西は公金なることを知つて水越から右金円の貸付を受けたものであるから、水越と同会社間の消費貸借契約は成立せず、したがつて水越と中西興産株式会社間の手形振出の原因関係は成立しないのであるから、右会社に手形上の債務がないというに帰し前にあげた、保証人が責任を免れ得る場合のどれにもあたらないのである。したがつて、控訴人の右の主張事実が存するとかどうかを判断するまでもなく、控訴人抗弁の理由のないことは明かである。

手形法第三二条第三項を引いて保証人と被保証人とを前者後者の関係にあるとして、一般的に被保証人に手形債務の有しない場合つねに保証人に義務がないと論ずることは結局右手形法第三二条第二項の規定が存在しないと同じことになる解釈であつて、そのあやまれることは明かである。

五  水越は本件手形の善意取得者ではないとの抗弁(この判決の事実らん控訴人の主張第二)について。

被控訴人は、水越は振出人中西興産株式会社代表者中西貞司から、受取人らん白地のまま、その補箋に控訴人銀行二俣支店長宮崎忠輝の手形保証ある本件手形の交付を受けたと主張するものであつて、水越の前者が無権利者であるにかかわらず悪意または重大な過失なくして取得したから手形上の権利者であると主張するものでないから、控訴人がかような抗弁をすることは不可解である(ただ、振出人のための手形保証が無権代理人によつてなされたとしても、その事実について水越が善意であつたということは被控訴人の主張するところであるが、これは手形の善意取得をいうのではなく、振出人のための手形保証人とその手形の受取人また受取人らん白地の場合の手形取得者との関係において商法第四二条第一、二項の適用あるべきことを前提としての主張である。この点については前に説明した)。

六  本件手形は一たん白地の補充をした後これを訂正したものであるから、その訂正前の署名者たる控訴人銀行は保証責任を負わないとの抗弁(本判決事実らん控訴人主張第七)について。

本件手形の支払期日が控訴人主張のように抹消、加入されていることは前認定のとおりである。しかし、これは中西が本件手形を水越に振出交付するとき、中西において誤記したものを同人が適法に訂正したものであることもすでに認定したところである。前示宮崎の証言その他本件における証拠によつては右に反し、中西が一たん本件手形を水越に振出交付して後、中西が宮崎に無断で支払期日を変更したとの事実を認めることはできない。また宮崎が、前段認定のように手形用紙の補箋に本件保証をし、手形用紙表面上部に数個の捨印を押したこと、その他本件白地保証をした前認定の事情から考えると、宮崎は本件手形の支払期日を何日と定めるかにつき、中西は一任したものと考えられる。よつて仮に中西が本件手形の満期を一たん昭和二六年三月一八日と補充しながら後日これを同月二八日と訂正したとしても、これをもつて中西が手形を変造したものとはいえない。なおまた仮にこの訂正をもつて変造だとしても、控訴人銀行は水越にたいし変造前の文言にしたがい、本件手形金支払の保証義務を負うものであり、本件請求はその責任範囲内にあるから、被控訴人の本件請求の当否にさしひびきはないのである。

七  本件手形は貸付手形すなわち消費貸借証書であるとの抗弁(本判決事実らん控訴人の主張第九)について。

本件手形は中西興産株式会社代表者中西貞司が同会社の水越にたいし負担する消費貸借契約上の義務の履行を確保するため控訴人銀行の手形保証をえて水越にたいし振出交付した約束手形であること、前認定のとおりであり、かつ、この手形を他に流通させる目的がなかつたことは前記第一に説示した事実関係全体からこれをうかがい得るけれども、かかる事実は手形行為の効力発生をさまたげるものではない。わが国現代の銀行業者が与信業務の一種としてしばしば行うところの、いわゆる手形貸付において銀行が借主をしてさし入れさせる約束手形が手形法上有効なことについて議論のないことからも明かである。

八  なお控訴人は本判決事実らん控訴人の主張第二および第九に摘示したように、宮崎が本件手形保証をしたことは控訴人銀行と水越との間に民法上の保証関係が生じたのと同一であり、中西興産株式会社の消費貸借上の主債務が生じない以上、控訴人銀行も保証債務を生じないと主張するかのようである。

しかし、被控訴人の本件請求は被控訴人の手形保証人としての義務の履行を求めるものであつて、中西興産株式会社の消費貸借上の債務の保証債務の履行を求めるものでないこと、被控訴人主張の全趣旨から明かである。のみならず、控訴人銀行が中西興産の借用金債務について保証をしたことはこれを認めるにたりる証拠がなく、したがつて控訴人の手形保証が控訴人の民法上の保証債務の履行確保あるいは支払方法としてなされたというようなことを認める余地はない。控訴人の主張は右と異る事実関係を前提とするもので採用の価値はない。

第三結論

以上に述べるとおりであるから水越は控訴人銀行にたいし、本件手形金九百七十万円およびこれにたいする本件訴状送達の翌日たる昭和二六年五月一二日以隆支払ずみまで年六分の割合による遅延損害金の支払を求めうべきところ、国が同年一〇月二六日水越から本件手形の裏書譲渡を受け、その所持人となつたことは当事者間に争がなく、したがつて国は控訴人銀行にたいし、右手形金債権を取得したものであり、また日本電信電話法施行法(昭和二七年法律第二五一号)第三条、日本電信電話法(同年法律第二五〇号)第三条によれば被控訴人は同年八月一日これら法律の施行により国の右権利を承継したことが明らかである。

よつて被控訴人銀行にたいし、右手形金および遅延損害金の支払を求める本件請求は正当としてこれを認容すべきところ、原判決は控訴人にたいし、脱退被控訴人水越政次にたいする右金員の支払を命じたものであるからこれを主文のとおり変更する。なお、本件については仮執行の宣言はその必要がないものと認めこれを却下し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条第九五条により主文のとおり判決する。

(裁判官 藤江忠二郎 原宸 浅沼武)

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